塾員 in 台湾
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−赴任当初は、台湾は今以上に日本と違っていたと思いますが、戸惑ったことなどはありませんでしたか?


 私は非常に楽観的な性格なのです。それが幸いして、赴任以来、13年を経た今にいたるまで、辛かったことはほとんどありませんでした。

 台湾での生活が順調だった一つの要因としては、私は家族も一緒に台湾に連れてきたことがあると思います。日本と同様に、家に帰れば家族がいますので、日常のリズムを崩すことなく仕事に集中することができました。そのお陰で、異国で暮らす不便を感じることなく、新しい仕事にチャレンジすることができた気がします。
 ただ、当時、下の子は僅か10カ月、上の子は3歳で台湾へ来ましたから、子供の病気のときが大変でした。子供の痛みの様子や具合などを担当医に上手く伝えられなくて、不安になったことはありました。これは今でも、海外に赴任する皆さんが苦労なさる点だと思います。

(右:奥様と下のお嬢さん。8月の三三会にて)

−同じデパートでも、日本と台湾との違いを感じたことはなかったのでしょうか。


 デパートという点で、日本と台湾を比較して最も差があったのは営業時間でした。13年前の赴任した当時、日本橋三越の営業時間は朝の10時から夜の6時まで、毎週月曜日は定休日、正月三が日も休業していました。
 一方、台湾は、365日、毎日営業です。しかも夜は9時半までお店を開けている。

 休日前となると夜10時までの営業ですから、社員の勤務時間は日本と比較してとても長くなります。いまでこそ日本のデパートでも、夜8時くらいまで営業するところが増えてきましたが、当時の日本には台湾のように営業時間が長い百貨店はありませんでした。その点では、“日本のデパートが台湾化されてきた”といえますね。
 利用者の立場からすれば、夜の9時半、10時までお店が開いているのは非常に便利です。仕事を持っている人は、昼間は買物をする時間はとれませんが、台湾のように営業時間が長ければ、仕事が終わってからもゆっくり店内を見て周って、買物を楽しむことができます。

 日本も台湾も、午後の3時から5時の間がお客さんの入りが多い時間帯なのです。日本はそこで終わってしまいますが、台湾の場合はもう一山あって、夜の7時から8時、9時にかけて第2のピークがきます。台湾では、夕食を済ませてからデパートに買い物に来る人が多いということでしょうね。

−たしかに台湾のデパートは、夜遅くになっても、カップルや家族連れで混雑していますね。ところで 今年はSARSの騒ぎがあって、多くの人が集まる百貨店に行くことを控える傾向が暫く続きました。そ の間、デパートとしては営業面で大変な影響が出たのではないでしょうか。


 SARSが流行した時期は、客足がかなり遠のきました。ここに入っている台湾料理店にも人がぱったり来なくなりました。
 ただ、興味深かったのは、皆さんが外食を控え自炊をするようになったようで、フライパンが随分と売れました。また、地下の食料品の売り上げも伸びました。そのデータから、外食が好きな台湾の人たちも、このときばかりは多くの人が自宅で食事を作るようになったのがわかりました。普段めったに食事など作らない単身の日本人駐在員でさえ、地下で食品を買い求めに来店していたようです。ただし、ラーメンなどのインスタント食品が多かったようですが(笑)。
 
 SARSによって落ち込んだ5月の売り上げは、その後6月、7月で挽回しました。お陰様で今はすでに前年の売り上げを上回っています。

 ちなみに、今年3月から、新光三越南西店9階にfnac(法雅客)というフランス系のテナントが入りました。fnacは書籍やCDやDVD、音響関係の商品やカメラ、パソコンなど、最先端の文化と技術が集まる場所として、若い人たちに人気のあるお店です。

 もともとfnacは台湾で店舗展開していましたが、今年に入って新光三越と提携し、この南西店を皮切りに、既に信義、桃園、台中店でもオープンしています。秋には台南店にオープン予定です。半年立って、売り上げも伸びてきましたが、これをきっかけに、今後、20代、30代の男性客が足を運んでくれればと期待しています。

−店長になられてから、スタッフにはどのような姿勢と方針で臨まれていらっしゃるのでしょうか。


 社員一人一人が、目標を持つようにしています。各自が目標を持ち、それに対して成果はどうなのか、を確認していくということですね。

 それから、「自分のお客さまを持ちなさい」ということも言っています。これは日本では分かりやすい話なのですが、こちらではすぐにピンとくる人がなかなか多くいません。新光三越南西店の「お店の固定客」はいても、販売員一人一人が自分のお客さま、つまり顔と名前がすぐ浮かぶようなお客さまが何人いるか、それが大切だと言っています。

 台湾の場合、各デパートや各店舗で、売られている商品はそれほど変わりがありませんので、商品で差別化できないわけです。では、何で差をつけるか。台湾の場合、バーゲンで客を引く、もしくは贈品(景品)で惹きつける、ということになります。
 サービスで差をつける、というのは地道で効果が出るまで時間がかかる話だからです。ただ、この南西店は、売り場面積が大きすぎず、どちらかといえばこじんまりしています。このメリットを活かして、たとえばホテルでいえば、西華飯店のようなお店、つまり、小さくてもサービスが行き届いているお店として、他店にはない付加価値をつけていけないかと思っています。

 「おもてなし」という概念を、社員一人一人に理解してもらい、日々の接客の中で活かしていってもらえれば、ということを考えています。
                                    
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